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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)1513号 判決 1965年4月23日

原告 坂東船具株式会社

右代表者代表取締役 坂東幸雄

右訴訟代理人弁護士 木場悦熊

被告 堀幸平

右訴訟代理人弁護士 中村健太郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

被告が原告主張の訴外大和造船株式会社振出に係る約束手形に手形保証をなしたこと、右各手形が原告から株式会社福徳相互銀行に裏書譲渡せられ、同銀行が支払期日に支払場所に該手形を支払のため呈示したが拒絶せられ、原告主張の如く拒絶証書が作成せられたこと、そして、その後被告が右手形金の一部として金四八三、三四八円を右銀行に支払い、法定充当せられたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫と右手形を原告が現に所持している事実とに徴すると、原告はその主張の如く右銀行から、右各手形を白地による戻裏書により譲渡を受け、現にその所持人であることが明らかである。そうすると、原告は被告に対し右手形金残金の支払を請求しうるものというべきである。

そこで、被告の抗弁について判断する。

一、被告は前記の如く株式会社福徳相互銀行に対し金四八三、三四八円を支払うことにより、残額全部を免除せられた旨主張するが、右免除の事実については、当裁判所の措信しない被告本人の供述(第一、二回)を除いては他にこれを肯認するに足る確証はなく、却って、証人伊藤猛の証言と原告会社代表者尋問の結果によると、本件手形は前記の如く不渡になったので、右銀行は裏書人たる原告会社に買戻を請求したが、原告会社には支払能力がなかったので、被告に対し遡求権を行使したところ、被告にもその資力がなかったので、交渉の結果、被告主張の如き定期積金契約を締結し、満額になった際、手形金の決済をすることになったが、合計四八万円の掛金があったとき、原告会社において残額支払の見込がついたので、右銀行は被告との前記掛金契約を解約し、残額は原告会社から払ってもらうことになったにすぎず、被告主張の如く被告の保証債務を免除したものではないことが認められるから、被告の右抗弁は理由がない。

二、よって、時効の抗弁について考える。

振出人に対する請求権は満期の日から三年を以て時効にかかるものであるところ、その手形保証人の保証債務の時効期間も、主たる債務の時効期間と同じであると解するのを相当とするから、原告の前記訴外会社及び被告に対する本件手形上の請求権はその満期の日たる昭和三五年七月三〇日から三年を経過した昭和三八年七月三〇日の経過と共に時効により消滅するものというべきである。しかるところ、手形保証人である被告に対し右時効時間内である昭和三七年四月二三日本訴を提起していることは本件記録に徴し明らかである。そして、原告は右時効期間内である昭和三五年九月一九日、或は昭和三八年二月主債務者たる前記訴外会社において本件手形金債務を承認し、同日を以て時効は中断した旨主張するので考えるのに、≪証拠省略≫を綜合すると、原告は昭和三五年九月一九日現在前記訴外会社に対し売掛代金債権金一、四九四、〇五二円、手形金債権金八、一九六、〇〇〇円合計九、六九〇、〇五二円の債権を有していたところ、右会社は同日原告に対し右債務の存在を承認したのであるが、右手形金債権の中には本件手形金債権を包含していること、その後右会社は一般に支払を停止したので、原告等債権者は弁護士久保泉を代理人として、昭和三六年四月一〇日大阪地方裁判所に右会社の破産宣告の申立をしたのであるが、昭和三八年二月、右会社とその債権者との間に次のような示談が成立し、右破産宣告の申立が取下げられたこと、即ち、原告を除く債権者にはその債権額の二割を弁済し、残額は全部免除せられることになったが、原告は前記会社から製品材料を持ち出していたので、他の債権者からの異論もあり、原告及びその子会社の前記訴外会社に対する売掛金債権合計金二、五五二、三八八円及び原告が所持する約束手形金四、〇九六、〇〇〇円以上総計金六、六四八、三八八円の一割に相当する金六六四、八四〇円の支払を受け、その残額はこれを免除したが(もっとも、右会社と原告間には他の債権者に内緒で原告に右の外五分相当の金員の支払が約定せられた)、右会社が原告宛てに振出した約束手形一〇二通額面合計金二、四六〇、〇〇〇円は原告から更に第一信用金庫に割引のため裏書譲渡せられ、当時原告は右手形を所持しておらず、また本件手形も、原告は前記の如く福徳相互銀行に残金を支払ってこれを受戻したのであるが、右資金は訴外原信一からこれを借受けていたので、右手形を原信一に保証の意味で交付し、当時原告においてこれを所持していなかったので、これらの手形金については、原告と右訴外会社間で示談をすることができない事情にあったので、これらについては別途で解決することになったこと、そして、右訴外会社は第一信用金庫との間では右手形金のうち金六四二、〇〇〇円を支払ったのであるが、右原信一関係の分、即ち本件手形金については、右訴外会社は原と何らの交渉もしていないことが認められ右認定に反する被告本人の供述は前顕各証拠に照し措信し難く、他に右認定を覆すに足る確証はない。右認定事実によると、右訴外会社は昭和三五年九月一九日原告に対し本件手形金債務の存在を承認したことが明らかであるが、右訴外会社が昭和三八年二月原告に対し右手形金債務の存在を承認したものと解することはできない。けだし、手形時効の中断事由たる承認は、現実手形債権としてその権利を行使しうる者に対して、即ち、手形所持人に対してその権利の存在を認識する旨の表示であることを要するもので、現に手形を所持していない前者に対する承認は無効であり、その効力を生じないものと解すべきところ、原告は右示談契約がなされた当時には、本件手形を所持しておらず、訴外原信一においてこれを所持していたのであるから、原告と訴外会社との間に前示のような示談契約が成立しても、これを以て、右訴外会社が原告に対し本件手形金債務を承認したものということはできない。してみると、本件手形金債権の主債務者たる振出人に対する時効は満期の翌日たる昭和三五年七月三一日から進行を始めたが、右昭和三五年九月一九日の債務の承認により一たん中断し、その翌日から再び進行を始め、それから三年を経過した昭和三八年九月一九日の経過と共に、消滅時効が完成したものというべきである。原告は右時効期間内である昭和三七年四月二三日被告に対し本訴を提起した旨主張するが、保証人に対し時効を中断しても、それは主たる債務の時効の進行には影響を及ぼさずこれが消滅したときは、保証人も責を免れるものであり、手形保証人たる被告は主債務者たる振出人の消滅時効を援用しうるものと解するのを相当とする。そうすると、被告の原告に対する本件手形金債務は、主債務の消滅により、その責を免れるに至ったものというべきである。

してみると、原告の本訴請求は理由がないから、失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大野千里)

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